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(写真はAT853)


日本人テーパーに人気のある2つのマイク、AT943(SP-CMC-8)とAT853(SP-CMC-4)について紹介します。


1. オーディオテクニカ製マイク(AT943とAT853)の特徴

この2つのマイクには、いくつかの共通点があります。

(1)コネクター

日本が誇るオーディオメーカー、オーディオテクニカ社が製造したこれらのマイクは、ファンタム電源で動作し、コンサート会場などの本格的な音響システムでの使用に適しています。マイクのコネクタはMini XLR仕様ですが、コンサートホールの音響システムでは標準XLRが一般的なため、接続時には写真にあるステップダウンアダプターを使用します。

また、小型の録音機や9V駆動の小型プリアンプに接続する場合は、ステレオミニ対応が必要となるため、Mini XLRコネクタ部分の改造が必要です。

(写真はステップダウンアダプター)


(2)必要な電圧と電源による音質の違い

このマイクを会場の音響システムに接続し、ファンタム電源で使用する際には、電圧を下げるためのステップダウンアダプターが必要です。ステップダウンアダプターを使っていることからもわかるように、実際には9Vの電圧で十分に動作します。ただし、ファンタム電源を使用する場合はSN比(信号対ノイズ比)が向上するため、レコーダーのレベル設定がしやすいという利点があります。

最終的には用途に応じて使い分けるのが理想的です。静かなアコースティックライブではファンタム電源ユニットを使い、大音量のライブでは9Vのプリアンプが適しているでしょう。そのため、Mini XLRコネクタ部分は改造せず、Mini XLRからステレオミニに変換するYケーブルの使用をおすすめします。

(3)指向性

AT943とAT853の指向性は、ELEMENT(通常はCAPと呼ばれる部分)を交換することで変更可能です。指向性(Cardioid)から無指向性(Omni)、さらに超指向性(Hyper Cardioid)へと切り替えられるため、用途に応じた録音が可能です。一般的にマイク全般においても、指向性エレメントの後ろ部分をテープで塞ぐことで無指向性に変えることができます。

なお、オーディオテクニカは一時期、エレメントの生産を中止していたため、市場ではHyper指向性のエレメントが希少となり、機材交換サイトで高値で取引されていました。

(4)入手先

両マイクともオーディオテクニカが主に海外向けに製造・販売していたため、かつては国内での入手が困難でしたが、現在は国内のオーディオ機材販売店でも購入が可能です。ただし、日本製であるにもかかわらず、国内で調達する場合は海外から取り寄せるよりも価格が割高になることがあります。

それでは、各マイクを紹介していきましょう。まずはAT943(SP-CMC-8)からです。


2.AT943(SP-CMC-8)

このマイクは、日本人テーパーの間で非常に人気があります。コンパクトなサイズながら、中高域を明瞭に捉える音色を持っており、マイクの向きや設定が少々適当でも、十分に良い音を録ることができます。Tapingに初めて挑戦する方にとっては、扱いやすいマイクです。

ただし、Tapingに慣れ、ハイエンドマイクでの録音を聞き始めると、このマイクに対して「何かが違う」と感じる場面が出てくるかもしれません。


中高域にやや強めの色付けがあり、耳につく部分もありますが、非常に抜けの良い音が特徴で、日本人には好まれる傾向にあると思います。ただし、音源からの距離が遠くなるにつれて低域が薄れていくため、スピーカーの真前ではクリアでFM放送のような音質が得られるものの、コンサートホールでは後方になるほど音圧が不足し、全体的に物足りない印象になることがあります。ドーム会場ではさらに弱くなり、AM放送のように感じられる場合もあるでしょう。

また、あまり話題にはなりませんが、AT943はホワイトノイズが多いため、アコースティックなライブではファンタム電源の使用を推奨します。

以下は、ライブハウス2階の後方からHyper Cardioidでスピーカーを狙って録音したサンプルです。距離があるため低域が不足していますが、Hyper指向性のため拍手はほとんど拾われていません。

このマイクは、本来、テレビのレポーターが胸元に装着して使用したり、ロックバンドの管楽器(例えばサックスホーン)のベル部分に取り付けて使用することを目的として設計されました。

それでは、続いてAT853(SP-CMC-4)を紹介します。


3.AT853(SP-CMC-4)

AT853は、オーディオテクニカのマイクの中で唯一、低域に重点を置いた設計が特徴です。録音位置がやや離れていても低域をしっかり拾う指向性マイクは、この価格帯ではあまり多くありません。ドームクラスの大きな会場でも、第2ブロックあたりの距離からでも十分に狙えるマイクです。


海外では、録音が許可されているJAM BANDのコンサートで必ずと言っていいほど見かける標準的なマイクです。AT853は、マイクの角度や向きによって音像が微妙に変化するため、セットアップにやや難しさがありますが、うまく調整できればハイエンドクラスの音で録音できます。Schoepsには及ばないものの、低域に独特の癖があるAKGクラスとは十分に勝負できる音を収録可能です。

中高域がやや不明瞭という意見もありますが、その多くは録音位置が悪かった(左右スピーカーの間からずれていた)り、マイクの左右や高さの設定ミス、または機材性能以上のクオリティを求めた場合が原因であると思われます。



海外では、「ハイエンドを購入するまではAT853で十分」と言い切るテーパーも少なくありません。じっくりとTapingに取り組みたい方にはAT853、少し試してみたい程度ならAT943が向いているでしょう。どちらのマイクも汎用性が高く、価格も手頃で、優れた選択肢だと思います。

以下のAT853のサンプルは、音響が非常に良い会場で、最適な録音ポジションから収録したものです。セッティングは完璧で、当日の音響スタッフの腕も良かったため、素晴らしい録音が実現しました。

こちらがSchoeps MK4の録音です。音響が良くない会場での録音ですが、AT853と比較すると低域の量と質に顕著な違いがあります。この会場は音が回らず、壁に吸い込まれるような感覚があり、あまり好ましく思えません。コンサートホールというよりもミニシアターのような印象です。指向性マイクよりも無指向性マイクで録音した方が効果的な会場と言えるでしょう。このMK4の録音は、実際に会場で聞いた音に近いものでした。